ここでは、主な研究の紹介をします。まだ話題はありますので随時更新していきます。

 現在、当研究室ではエンジンの熱流体に関連した研究を主として行っています。エンジンは、自動車、航空機、ロケットなどで推進力を得るために使われています。そこでは、燃料を燃やした熱から動力を得ていますが、このエネルギー変換の効率を上げることや排気ガスの有害性を減らすことは重要な課題です。それらに関連した研究を以下に紹介します。


(左から自動車エンジン(マツダ)、航空エンジン(ロールスロイス)、ロケットエンジン(アポロ計画))


    

噴霧の微粒化

 自動車や航空機のエンジンでは一般に液体燃料が使われています。液体は運びやすく密度が程好いので使いやすいのです。エンジン内では燃料を高速で噴射し細かい霧状にします。これを微粒化(atomization)と言います。そうすることで表面積を増やし、蒸発や混合が起きやすくします。すでにエンジンでは実用化されているわけですが、噴霧の形成の物理は実はまだ詳細には分かっていません。今後、さらに環境問題等に対応するためには噴霧の設計がますます重要になってきますので、噴霧形成の物理を正確に把握することは重要です。

(1) 微粒化の詳細物理(直接数値計算)

 本研究では、直接数値計算(モデルを用いずに気液界面の変形・分裂などを直接追跡する)の手法でディーゼル噴霧を模した高速液体噴射のシミュレーションをしました。その結果、高速に噴射された液体が空気に衝突して先頭部が巻き上がる様子や、巻き上がりのエッジおよび噴射液柱コア表面で不安定化が起こって液体が分裂し糸状の構造(液糸)を作る様子、さらにはその液糸から液滴が生成される様子などが詳細に明らかにされました。
 また、本結果を蒸発があるケースに拡張して、蒸気と空気の混合の様子や、液滴が存在する場での乱流の特性なども調べることができました。
 現在、これらの結果はモデル化のための基礎データとして活用されています。そして、噴霧燃焼の予測と設計の高精度化に役立つべく研究を続けています。


図1:巻き上がる先頭や不安定化した液柱コア表面から糸状の液糸が分断しています。


図2:ズームしてみると液糸から液滴が生成されているのが分かります。これは表面張力によるものです。

・関連する論文(成果発信のページをご覧ください)
Shinjo et al., Proc. Combust. Inst. 2015
Shinjo & Umemura, Proc. Combust. Inst. 2013
Shinjo & Umemura, Proc. Combust. Inst. 2011
Shinjo & Umemura, Int. J. Multiphase Flow 2011
Shinjo & Umemura, Int. J. Multiphase Flow 2010

(2) 微粒化の詳細物理(実験)

 本研究は、名古屋大学宇宙航空研究開発機構との共同研究です。当研究室は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」内で行われる宇宙実験「落下実験から生まれた新しい微粒化概念の詳細検証~乱流微粒化シミュレータの構築を目指し~(実験責任者、梅村章名古屋大学名誉教授)」に共同研究者として参加します。この研究では、微粒化の根源である表面張力の働き、特に液糸から液滴を生成する過程を低速噴射液を用いて無重量環境下で詳細に調べます。そしてその中で、表面張力波の果たす役割について調べます。これまで、このような実験は地上では鉛直下方に噴くしかなく、そこでは必然的に重力による加速効果が入っていました。重力による加速は表面変形を不安定化するため、本来の表面張力による不安定化と重なってしまい、現象を見づらくしてきました。これに対して、梅村教授が提唱する表面張力波による自己不安定性機構を実証するのが本実験の目的です。そのために、重力の影響がない国際宇宙ステーションを用います。
 実施は2017年予定です。実験結果が揃って来たらアップします。


図3:低速噴射液の分断例。先端の影響と表面張力波により自己完結的に分断が繰り返されます。
(Umemura, J. Fluid Mech. 2016より)

・関連する論文(成果発信のページをご覧ください)
Umemura, J. Fluid Mech. 2016
Umemura & Osaka, J. Fluid Mech. 2014
Umemura, Phys. Rev. E 2011
Umemura et al., Phys. Rev. E 2011
Shinjo & Umemura, Int. J. Multiphase Flow 2010
梅村 他、日本航空宇宙学会論文集、2010
梅村 他、日本航空宇宙学会論文集、2010
新城 他、微粒化、2009
新城 他、日本航空宇宙学会論文集、2007

(3) 噴霧のモデル化(噴霧シミュレーション)

 本研究は、名古屋大学との共同研究、および北海道大学マツダ株式会社との共同研究です。(1)のような直接数値計算はモデルを含みませんが、大きな計算機資源を必要とする上に計算領域が小さい範囲に限定されるため、噴霧燃焼の実用的な計算を行うのには非現実的な手段です。そこで、モデルを用いた噴霧シミュレーションに期待がかかるわけですが、これまでの噴霧シミュレーションはノズル直下の一次微粒化領域((1)で解析した領域)をうまく扱えなかったために実験データをもとにチューニングする必要があるなどの問題点がありました。本研究では、これまでの知見の蓄積をもとに微粒化物理を正しく取り込みながら新たに提案された微粒化モデル(Umemura, Combust. Flame 2016)をシミュレーションに取り込みました。微粒化には乱流共鳴モードとRayleigh-Taylor(RT)モードを組み込んであります。このモデルの実装のために、Euler-Euler法とEuler-Lagrange法のハイブリッドのラージエディシミュレーション(large eddy simulation; LES)コードを構築し、その有効性を確認しました。

 本手法の優位性は、以下のようです。
- モデルの中に恣意的パラメータを含まず、実験結果を見ながらのチューニングが必要ありません。
- ノズル直下から液柱コアも含んで解析しているため物理的に一貫しています。そのためノズル上流の噴射装置の細部にも拡張できます。
 これまでこのように微粒化モデルが完全に閉じた噴霧解析コードはありませんでした。本コードでは、噴霧の発達や微粒化特性において予測性が格段に向上しています。このようなコードは、研究のみならず産業界でも広く使われることが期待されます。


図4: モデル噴霧シミュレーションによるディーゼル噴霧(口径0.3mm、噴射速度200m/s)の計算結果。
噴霧全体と内部の液柱コアを示しています。過渡的な噴霧発達がとらえられています。

・関連する論文(成果発信のページをご覧ください)
Umemura & Shinjo, submitted
Umemura, Combust. Flame 2016

混合バイオ燃料の特性

 バイオ燃料とは、主に植物由来の成分(油脂など)を精製してエンジンの燃料として使えるようにしたものです。燃焼はさせますが、もともと植物が成長するときに二酸化炭素を吸収しているとの考え方からトータルでは二酸化炭素を増やさないとされています。石油由来の燃料に近いものができますが細かい物性は違いますし、いろいろな制約から多種の燃料を混合させて使うことが一般的です。そこで、エンジン燃焼に関係するさまざまな性質、例えば加熱・蒸発・燃焼などの特性を把握しておかなければなりませんが、まだまだその研究は十分とは言えません。
 本研究では、小さいスケールである液滴および液滴群におけるそれらの性質を調べました。燃料の組み合わせとして想定しているのは、(石油由来の)ディーゼル油、バイオエタノール、バイオディーゼル油です。混合時はエマルジョンと呼ばれる状態(ディーゼル油中にエタノールが分散している)になっています。加熱時には、その物性の違いによって含まれているエタノールが先に沸騰(突沸)する場合があります。これは液滴を細かく分裂させる場合があります。これを二次微粒化と言います。これはうまく利用すると混合促進になるので、その特性も詳細に数値計算で調べました。
 その結果、二次微粒化・蒸気混合(図5、6)や燃焼(図7)についてこれまでになかった細かい知見が得られました。現在は、これを噴霧シミュレーションに組み込むためのモデル化に取り組んでいます。


図5:突沸と二次微粒化の様子。右上と右下に蒸気の噴き出し(赤色)が起こり、二次液滴がいくつかできています。


図6:液滴群で突沸による蒸気噴き出しと二次微粒化が起こったときの液滴間干渉の様子です。(図5とは色遣いが少し違います)


図7:燃焼条件下での突沸によるエタノール蒸気噴き出しと火炎の干渉。火炎領域は右側の青色部分で、エタノールのモル反応率を色で重ねてあります。

・関連する論文(成果発信のページをご覧ください)
Shinjo & Xia, Proc. Combust. Inst. 2017
Shinjo et al., J. Fluid Mech. 2016
Shinjo et al., Atom. Sprays 2016
Shinjo et al., Phys. Fluids 2014

振動燃焼の制御

 ガスタービンの燃焼器から排出される窒素酸化物(NOx)を減らすには希薄予混合燃焼方式を用いて火炎温度を下げることが有効です。(サーマルNOxの生成は空気中の窒素の酸化が主たる原因ですが、これには火炎の温度が生成率に直接に効くからです。)しかしながら、希薄予混合燃焼は燃焼が不安定になりやすいという欠点があり、ひどい場合には火炎が吹き消えたり、振動で燃焼器自体を破壊してしまうこともあります。
 そこで、燃焼が不安定になったときに何らかの能動制御をして燃焼を安定化する方法を探ったのが本研究です。本研究は、実際に燃焼させて制御を行った実験的研究(Tachibana et al. Proc. Combust. Inst. 2007)に対応する数値計算を行うことでより深い物理的理解を得るために行われました。メタンを主燃料とし、火炎基部に濃いメタンを能動的に噴くことで局所発熱率を変化させて制御を行うこととしました。その結果、制御が効いているときには、燃焼器内の圧力・速度・発熱の間で形成される振動維持ループが若干変化を受け、振動が起こりにくくなっていることがわかりました。


図8:実験での音圧レベル(SPL)が制御により減少する様子。(Tachibana et al. Proc. Combust. Inst. 2007)


図9:燃焼制御が行われているときの火炎の様子。

・関連する論文(成果発信のページをご覧ください)
Shinjo et al., Combust. Flame 2007

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