シリコン酸化の機構解明

シリコン熱酸化膜形成過程の簡単な理解

シリコン熱酸化膜成長速度の簡単な理論

簡単な理論の実験との比較

簡単な理論の限界

第一原理計算による検討1

第一原理計算による検討2

第一原理計算による検討3

界面でのシリコン原子放出の効果1

界面でのシリコン原子放出の効果2

界面でのシリコン原子放出の効果3

界面でのシリコン原子放出の実証

界面シリコン原子放出機構の発見が産業界に与えた影響

・ 実験による放出界面シリコン原子の性質の検討

・ 第一原理計算による酸化膜に放出されたシリコン原子の検討1

・ 第一原理計算による酸化膜に放出されたシリコン原子の検討2

・ 酸化自己停止とパタン依存酸化現象

・ シリコン熱酸化膜形成過程の全体像と残された課題

半導体であるシリコンの表面は、大気中に放置したり、酸素中で積極的に熱することで、酸化され、絶縁体であるシリコン酸化膜(シリカガラス)によって覆われます。このシリコン酸化膜は電気的に安定であるだけでなく、フラスコや試験管にシリカガラスが利用されているように化学的にもとても安定です。このため、シリコン酸化膜はシリコンの理想的な保護膜として機能し、酸化膜の表面に金属が付いたとしてもシリコンの特性は変化しません。このようなシリコン酸化膜の特性は、ゲルマニウムの酸化膜が水に溶ける可溶性であることと対照的であり、また化合物半導体にはそもそもこのような酸化膜は存在しません。このことは、当初ゲルマニウムでできていたトランジスタが動作不安定でシリコンに置き換わった理由ですし、またシリコンの加工はクリーンルームが必要とはいえ大気中で加工できるため製造コストが断然有利となっています。

また、フッ酸を使えばシリコン酸化膜は溶かして除去することができるため、イオン注入など、シリコン表面の微細加工に使うことができます。さらに、熱する温度と酸素濃度と熱する時間を調整することで、シリコン酸化膜の厚さは任意に制御することができます。そして、良好な絶縁性と安定な電気特性のために、シリコン酸化膜はMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)のゲート電極部分の絶縁膜(ゲート絶縁膜)に使うことができます。

このように、シリコン酸化膜はシリコンにとってとても重要であるため、シリコン酸化膜の形成過程がどのような詳細機構に基づいているのか理解することは工学的に非常に大事なことです。

さらに、シリコン酸化膜の形成過程の詳細機構は、金属の腐食(錆形成)現象など、さまざまな酸化現象のプロトタイプとして、科学的にも興味深い現象です。実は、シリコン(Si)と酸素(O2)の反応には、二種類の化学反応があるのです。

    Si + O2 → SiO2 (固体)

    Si + 1/2 O2 → SiO (気体)

固体であるSiO2ができる過程がいわゆる酸化過程ですが、気体であるSiOができる過程も酸化過程であり、前者をパッシブ酸化、後者をアクティブ酸化と呼ぶこともあります。SiO2ができる過程がシリコン酸化膜形成過程、SiOができる過程がSi表面が削られるエッチング過程に対応します。どちらが起こるかは、酸素(O2)の消費量によって決まり、酸素濃度が薄い時(酸素分圧が低い時)あるいは温度が高い時はエッチング過程が優先して起こり、酸素濃度が高い時(酸素分圧が高い時)あるいは温度が低い時は酸化膜形成過程が優先して起こります。酸素濃度によっては両方が同時に起こることもあり、とても面白い物理現象・化学現象です。