直線社会とまるい社会

 

平成12年5月27日 古津年章  

松江モラロジー事務所婦人部会合における講演要旨

 

あらまし

19世紀に化石エネルギーの使用が始まってから,人間の活動は大きく変りました.産業革命と言われるように,大昔に太陽が気のとおくなるほどの年月をかけて石炭や石油に貯えたエネルギーをいっきょに使うことで,大量生産ができるようになったからです.それまでは人間の暮らしは,飢餓と疫病との戦いに必死だったのですが,いま,私たちの暮らしは,少なくとも文明国では,食べ物や便利なものにあふれて,捨てる場所に困っています.こんなに豊かになっていいのでしょうか? どこかにしわ寄せがきていないか? それでも,もっと豊かに,もっと便利に,という向上意欲?は衰えていないようです.

このような直線社会に対して,別の社会を目指す動きが広がってきています.そのような社会を,まるい社会,と呼んでみます. いま日本は,考えられないほどの財政赤字や少年犯罪にみるような社会の荒廃に,未来はどうなるのか,という強い不安感が社会を覆っています.これを解決する道はあるのでしょうか? 私は,まるい社会こそがそれを救う根本策とみています.ここでは,直線社会のどこがまずいのかを考え,次に,「まわる」考えが重要な鍵になることを幾つかの例で示します. そのことから,新しい社会は「まわる」をモットーにつくる必要があることを提案したいと思います.

 

1.我々はどこにいるのか?

             21世紀を目前に控え、我々は日本の未来に確信を見出し得ていない ――

最も大きな問題は、急速な科学技術と産業社会の発展、そしてそれらを支える政治・経済システムが、社会の精神的ストレスと教育の昏迷と環境破壊をもたらしている、という矛盾である。だれもが、それを何となく感じながら、結局は短期的な経済的価値に縛られて、大きな方向転換を為し得ていない。これから日本は、いや世界はどうなるのか、という不安が社会を覆っている。当面の利益確保に追われながら、補正予算の振る舞い酒に酔いながら、誰もが沈没しつつある日本丸を感じている。

  このように物質的に豊かな社会でありながら,なぜこのような不安感に駈られるか?

 

2.人類社会は永久に発展?? 直線社会の例

(1) エネルギー消費

・1985年と1998年で電力消費は倍になった.1985年,私たちは,貧乏だったか? エネルギー不足で困っていたか? 

     地球の歴史と産業革命:19〜21世紀で化石エネルギーは使ってしまう?

(2) コンピュータ

ENIAC:1946年に開発されたコンピュータ。ビルの1フロアを占拠する巨体には約18000本の真空管が使用され、1秒間に5000回の整数演算,1秒に500回位の10桁の掛け算が可能。

     今のパソコン:1秒間に1億回以上の演算が可能.100万倍位の性能向上,大きさは100万分の1位になった.

(3) 開発,発展,高度化のジレンマ

     皆健康になったら,医者は失業です.

     新商品「おいしい水」.もっと水がまずくなればよい??

     コンピュータウィルスは,ソフトメーカがばらまいている??

     経済発展のためにはもっと浪費してください.

     科学教育,コンピュータ教育,英語教育,..

 

3.なぜ直線社会を目指してしまうのか?

(1)      もっと豊かに,もっと便利に

    今日より明日に,もっと楽な生活を:  人間の本能,正しい本能?

(2)      競争に勝たねばおちこぼれ

    のんびりしていたら人生の敗北者?  経済沈下?  過疎?  不幸せ?

4.直線社会の何が問題か?

(1)  地球の容量と人間活動

   地球の資源は有限です.そのうち皆ゴミに埋もれてしまいますよ.

   大海の中の小船:地球号

(2)      直線社会の目指すものは何か?

   もっと豊かな経済社会を,としか云われない昨今.果たしてこれでよいのか?

   幸福に人々が生きられる社会?

   幸福とは何か?

(3)人間の幸せとは何か?

   ・・・  

 

5.別の考えかたをしてみよう

(1)人間は何のために生きるのか?

     人によって人生観はまちまち.価値観の違い・・・

     生物としての人間に帰って考える.――>> 子孫繁栄

     人間以外の生物:自然の法則に合うことが, 大前提

     人間は自然の法則に合わずとも生きられる?

(2)地球を知り,自然を知る

     地球は太陽と水循環によって生かされている.

     生物は地球上の自然の循環の一部.

     人間以外の動物はゴミを出さない.

     目に見えない生物の重要性

(3)ひと,自然,ものを生かす: 浪費から循環へ: まわる社会

     農業は土作り(土,植物,動物,肥料)

     漁業の振興は森つくり(森,有機物,川,海,魚介類,海草,肥料)

     日本は世界からゴミを大量に輸入している?? 

     地域の資源を生かし,地域に返す(森の資源,田畑の資源,川,湖,海の資源,産業,エネルギー生産を地域のリサイクルで運営する)

(4)ハイテクからローテクへ

・だれもが発明家になれる

     ハイテクはわからない.だれもわからない.無気力化の原因,

     ローテク:昔からの知恵,子供,学生,主婦のアイデアが生きる.

 

6.「まわる社会」の生き方,考え方

・過剰な富と欲望が制限される.

・自然環境保護が進む.

・動物的な感性の癒しが得られる.

・利己的・競争的な価値観から、共生的な価値観へ移行する.

 (人間としての精神的レベルアップ)

・感性と理性(経済的営み)のジレンマが減少.

・生態系と自然の循環を意識する生き方と教育.

・「ローテク」が広い分野で活性化する社会.

・大規模集中から分散型・ネットワーク型へ.

・未来への希望、安心感が自然に生まれる.

 

 

7.おわりに

 

21世紀を目前に控え、我々は道を見つけていない.誰もが来たり来る新しい世紀に不安を感じている.しかし,道はあるのだ.それは我々の祖先が創り、維持・発展させてきた文化的・技術的、精神的伝統、豊かな自然環境を省みて、それを現代科学技術と融合させることである。言い換えれば、伝統的な循環産業、循環経済、地域自給型の自然共生システムを、産業革命以降、我々が開発してきた科学技術で再生させることである。それが「まわる社会」の概念である.そのような社会の実現あるいは方向転換が,我々の子孫に、真に豊かな自然、産業、そして品格を兼ね備えた社会を引き渡すことにつながるのである。