ユニークさと長期的価値と

H12.4.18 古津年章

 

中海の干拓問題について、農水省の本庄工区検討委員会の報告が出された。前面干拓、部分干拓、干拓中止の3論併記であり、後は知事の判断に委ねられることとなった。

 

これらの他に選択肢はないのか?という基本的問題はあるが、大筋で本庄地区をどのように取り扱うか、ということについては、これら3案をベースに考えても差し支えないであろう。私がかなり不満に思うのは、比較の項目として、環境への影響という項目はあるが、今後長期的に中海・宍道湖を中心とした汽水域をどう守り、発展させ、子孫へ引き継ぐか、という長期的な展望を基にした検討が提示されなかった(委員会では議論されたのかも知れないが)ことである。私はこの視点が、中海干拓の方針を定めるのに最も重要と思う。

 

汽水域は「生命の子宮」と言われる。淡水と海水が微妙に交じり合い、そこには他にはない独特の生態系が存在する。それは自然そのものの価値に加え、豊かな水産資源を提供する。農業利用に対して水産業の利益は小さいという結論が出されているが、これは中海の現在の水産業の規模を基にしたものであり、今後の開発を考慮していない。汽水域は,海や川と異なり,どこでも存在するのではない.その意味で,その自然環境を保護することは,単にその「自然」を付加的価値で捉えたのでは,捉え切れない重要な意味を持っている.ひとつは,これまでの干拓・埋め立て事業および汽水域周辺の開発によって,日本の多くの汽水域が消滅あるいは,その環境の劣悪化という状況になった今,現存する最大の汽水域のひとつであり,まだ比較的よい水質を保っている宍道湖・中海を守り,その自然環境を改善する事業は,環境学的,生態学的に極めて重要であるということである.それに加えて,他にはないユニークな生態系を持つ汽水域は,産業的,観光的に,この地域を大きく発展させることのできる貴重な資源とみなせることである.

 

確かに,干拓して農業の発展を図ることもひとつの道ではあるが,既に過去の干拓事業で得られた土地,後継者に悩む既存の農作地帯の振興を図ることで,農業の発展は十分図ることが可能と考える.それよりも,山林,農作地,河川,汽水,海洋と,変化に富むこの地域の未来を,それらの山,野,川,湖,海が相互に結びつく循環型経済システムの育てることが重要である.その中で,他にはない,貴重な汽水域は,経済的にこの地域が成功する大きな鍵であると考える.このように,出雲地域を育てる方向に転換することは,現在過疎に悩むこの地域の魅力を大きくさせる.他の地域に先立って,21世紀型の経済にチャレンジすることで,他の地域の見本になるようにがんばろうではないか.何よりも汽水域は貴重で守ることが島根の責務,100年後を考えた決断,そして汽水域は他にはない経済的価値を生み出す,という認識が重要である.産官学そして市民の協力で,さるぼうが取れる,そして泳げる水域を中海に復活させようではないか.