歩道と街と地域社会

H12.9月末 古津年章

 

松江は豊かな汽水域の中心にあります.これが独特の自然と,それと調和した街を作り上げていると言えます.しかし汽水は,それだけで存在しているのではありません.雨が降り,地下水や川となり,それが汽水に流れ込み,更に海につながっている.その過程で,森ができ,田園ができ,生き物が住み,更に汽水や海の生態系が作られています.土壌や川や汽水や海からの水の蒸発は,上空で雲や雨に変わり,水の循環を形作るとともに,蒸発や凝結の過程で熱エネルギーを輸送し,地上では過ごしやすい夏を作ることにも役立ちます.全ての生き物は,この水の循環のなかで生かされているといってもよいでしょう.市街地も水循環の過程の一部として存在しています.しかし多くの市街地では,水循環は本来の機能を失っています.大地をアスファルトやコンクリートで覆い尽くすことにより,地下水が萎え,土壌中の生物が途絶え,植物が生気を失い,街をヒートアイランドにします.その結果は,人間にとっても暑苦しい,潤いのない街になっているのが現状です.

松江は水の都と云われています.他の町に比べれば水は豊かだし,緑も比較的多いとは思います.しかし我々は水循環の大切さをきちんと認識しているでしょうか?クルマを中心とした便利さを追い求め,貴重な水を無駄にし,潤いのない町にしつつあるのではないでしょうか?百年の計としての街作りのカギは,「水循環」の活性化と,それと不可分の関係にある「緑化」にあると思います.歩道もその重要な要素なのです. 「歩きよいまつえ・・・」プロジェクトの範囲を逸脱するかも知れませんが,歩道も総合的な街作り,地域興しの一環であるべき,という観点で提案致します.

提案

具体的には以下のようなプロジェクトを進めることが重要と考えられます.

1.     歩道をアスファルトから,透水性,保水性のある舗装に変える.水循環の正常化,ヒートアイランド化の軽減,雨天時の水溜まりの形成を防止し,歩きやすい歩道作りに役立つ.透水性舗装が不適な場所には「雨水浸透マス」を義務づけ,水循環を助ける.

2.     歩道には,大々的に並木と花壇を作る.花壇でなくても雑草畑でもよい.(雑草もきれいに刈り込めば美しくなる.昆虫にとってはこちらの方が住みやすいかも知れない.) これらは雨水の地下への浸透を増やし,それ自身保水性を持つ.緑ボランティアを募り,並木や花壇の手入れをしてもらう.その活動を市が支援する.市中では,庭が狭く,各家でプランタなどを買って,人工的に庭を造っている所が多いが,その代わりに市が花壇の場を提供する形になる.

3.     並木や花壇には随所にベンチやピクニックテーブルなどを設け,お年寄りなどが気軽に休息できるようにする.

4.     夏の渇水時,災害時に備え,手押しポンプの井戸を随所に整備.ボランティアが管理し,並木や花壇の手入れに利用.(停電時に備えるため,「手押し」がポイント.)

5.     要所要所に,冬の大量の雪を貯える「氷室」や,梅雨季や台風時に多量に降る雨水を保存する「天水尊」を設置.渇水時や災害時の水需要に備える.

もちろん,上記のそれぞれのプロジェクトには水循環,生態系保護,安全性などの観点から,十分な技術的検討が必要です.そのような検討を踏まえて「水循環の街」が形成された場合,以下のような効果が期待できるでしょう.

1.     緑が豊か,休息所があり,人に優しい舗装があることにより,歩道が歩きやすい,過ごしやすい場所となる.その結果,周辺地域が住みよい街に変わり,商店街も「緑の散歩コース商店街」として活性化する.

2.     ヒートアイランド化が軽減され,電気エアコンではなく,自然エアコンを楽しめる街となる.人々は戸外生活を楽しめるようになり,昔のような井戸端会議的交流の場が復活する.

3.     街全体に潤いができ,植物や昆虫や動物(人間も含め)が健康になる.

4.     子供の通学路が楽しくなる.自然に自然と触れ合える.緑ボランティアの人々との会話・交流が生まれる.

5.     水と緑が豊かな街は人間の知的創造力の活性化に役立つ.その結果,文化的活動や今後の社会のIT化に不可欠なソフトウェア産業活動にとって魅力的な街となる.

6.     水循環の正常化により,汽水,池,川,地下水など重要な水資源の水質が改善される.それは,うまい酒,うまい農作物,豊かな水産資源の根幹である.(これには松江だけではなく,周辺地域も含めた大きなプロジェクトが必要でしょうが.)

7.     水循環の正常化により,集中豪雨や渇水に強い街になる.

8.     上記のような効果の集大成として,廃水,ゴミ問題など全てに渡り,水惑星「地球」の環境を絶えず考えて行動できる先進的な街になる.

最後に重要ポイントをひとつ: 松江の街,特に中心街では,クルマの便利さを過度に追求せず,歩行者や自転車,公共交通機関の便利さを優先させるべきです.何故なら,クルマに便利な広い道路は,アスファルト化を助長し,広い道路で地域を分断することにより,歩きやすい歩道,楽しめる歩道,歩道と一体化した街の活性化という,上の思想と逆行するからです.「全面締め出し」は不可能でしょうが,少なくとも,重要な緑化歩道では,クルマは排除し,歩くことを楽しめる道にすべきだと思います.そのためにも,クルマに乗るより歩いてみたい,と感じさせる魅力が街には必要だし,それは街自体の経済的な価値をも高めるものです.