電子メールの常識


電子メールは便利な道具であるが、人と人との関係を作る物であるので当然必要な作法もしくは常識がある。よくネットワーク上のエチケットなのでネチケットなどと呼ばれることがあるが、そのような特別な物は必要ない。人間としてわきまえておくべき常識を守ることが大切である。後は、技術的に必要な知識や作法があるが、基本はやはり「人間としてやってはいけないことは電子メールでもやってはいけない」である。


  1. 匿名と実名

    電子メールは直接顔を合わせることなくコミュニケーションを取ることができる。自分のメールアドレスもそれなりの知識があればごまかして相手に知られないようにすることも可能である。よって、匿名にかこつけてよからぬことをすく人間がいる。これは電子メールだからいけないのではなく、例えば、無言電話で嫌がらせをするのと同じように、常識に欠ける行為である。

    電子メールは学術研究機関を中心に発展してきたため、かつては利用できる人間は限られていた。また、研究上のつながりであるので、当然自分の所属や名前を名乗って相手と通信することが常識であった。

    一方、かつてパソコン通信というコミュニケーション手段がよく利用されていた。(もちろん現在でもあることはある)そこでは、自分の名前を名乗る方が特殊で、通常はハンドルと呼ばれるニックネームで情報をやり取りすることが常識であった。

    ここで、ハンドルはそれだけで別名という意味なので、ハンドルネームなどという表現は「馬から落馬した」のような重複した表現であり正しくないので注意すること。

    そのような文化(常識)の違いから、お互いの出身分野によって所属や実名、匿名を巡って議論が生じることが多々あった。これはある種の宗教論争であるので単純には解決しないが、この授業を通して電子メールの利用を行う諸君は伝統を尊重して実名を基本として欲しい。(もちろん、電子メールアドレスがそのまま学生番号である場合には自分の正体を隠しようもないが。)

    実名を重要視するスタンスでは、一般にメールの書式の常識としてはまず初めに自分の名前を名乗る、最後に簡単な署名を付ける、の二点がある。今後はメールの冒頭で名乗るようにしよう。また、署名もちゃんと付けよう。

  2. 改行

    古くからある端末に付属していたディスプレイは横方向の表示がアルファベット80文字程度しか描画できなかった。もちろん、GUIができる以前の話であり、文字ベースの画面である。そのような端末で発展してきた電子メールは当然ディスプレイの制約を受けており、メールの文章を読むためにはその程度の文字数で改行する必要があった。その後、GUIの発展とともに横方向にスクロールすることも可能となったし、メールを表示する画面で自動的にはみ出した部分を折り返して表示する機能も付け加わったので改行しなくても読むことはできるようになった。

    しかし、横方向にスクロールしながらメールを読むのは不自然であるし、手間もかかる。また、一行が異常に長いので引用などを行った場合に画面の表示が見苦しい。結局、いまでも自然に目に入る範囲の画面を考えると80字(漢字を含む日本語では半分の40字)以内で改行を加える方が読みやすいメールになる。よって、メールを作成する場合には適宜改行を入れておくこと。

  3. 引用

    電子メールはコミュニケーションの手段であり、議論や討論にも向いたテキストベースの情報交換に優れた威力を発揮する。議論などを行う場合に相手の文章を引用してそれに付加する形で自分の意見を述べる、という形式がわかりやすくて良い。そこで、相手の文章を引用することが標準の返信機能に組み込まれている。ところが、そのままにすると、全文を引用することとなり、不必要に長く読みにくいメールになるとともに、無駄なトラフィックを生じる。通信手段が進歩してきても、自分で電話代や通信料金を負担している場合にはメールは必要最小限に短い方がありがたい。よって、無駄な全文引用はしないで必要な部分を適宜引用して情報交換すること。

    また、署名は各人の個性を発揮する場であるとともに、本来のサインの意味を持っている。(簡単に複製できるので厳密な意味でのサインとは違うが。)よって、サインを引用(複製)することはふさわしくない行為である。相手の署名にミスを見つけて連絡するとか、その中の格言などにたいして意見を述べるとか、とくに必要がない限り署名は引用しないこと。

  4. プレーンテキスト以外の形式

    前回の時間に紹介したように電子メールにはバイナリファイルを添付して相手に送ることができる。また、HTML形式で装飾が行われた文章も送ることができる。しかし、電子メールの基本はプレーンテキストと呼ばれるただの文章のみであり、それで必要なコミュニケーションは十分にとれる。図表が必要な場合でも、罫線を利用することによりそれなりの作業はできる。

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    ┃   ┃       ┃   ┛┗━━━━━━ 地図も描ける
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    HTML形式で送信する場合やバイナリファイルを添付する場合には相手の環境をよく確かめて了解を取った上で行うこと。通常はプレーンテキストで送信すること。UNIXとMac、Winではそれぞれ違う形式の圧縮方法がデフォルトであるので、とくに添付ファイルには注意すること。

  5. 文体

    これも常識であるが、大学生ならば大学生らしい知性のある文章を書くこと。キーボードや日本語入力、変換に不慣れであるとそちらに気が回って文章の推敲がおろそかになりやすい。メールを送信する前にはきちんと文章を確かめて礼節や謙譲を忘れないようにすること。