お勧め本リスト
私自身の専門に直接の関係はありませんが,読むと視野が広がるのではないかと思う本を集めてみました.
これらの本を面白く感じるかどうかは読み手に依存するので,面白くなくても文句はつけないでください.
また,コメントは筆者の個人的な見解であり,所属組織には全く関係ありません.
- 都筑 卓司,「新・パズル物理入門」,講談社ブルーバックス,1972.
数式をほとんど使わずに力学の面白さを解説している本.
小中学生でも読める内容なので,若いうちに読むと力学の楽しさに目覚めるかも...
同じ著者の「パズル物理入門」もありますが,古典力学の問題が多く収録されたこちらの方が初心者向き.
慣性モーメントの実験として,Q.18は一見の価値があります.
長らく絶版でしたが,2002年に新装版が出ました.
- 長沼 伸一郎,「物理数学の直観的方法」,通商産業研究社,1987.
テイラー展開,フーリエ級数,ベクトル解析などの物理的な意味を述べている本.
数学を理解するためにはこの本だけでは不十分だが,定義を知った後に読むとありがたみが分かる本.
- ダレル・ハフ,「統計でウソをつく法」,高木 秀玄 訳,講談社ブルーバックス,1968.
カバー扉に書いてある,英国の政治家ディズレーリの名言「ウソには3種類ある.ウソ,みえすいたウソ,そして統計だ.」を実際に示す本.
ただ,今から見ると素朴な手口と感じます.
(あるいは,常套手段化している.)
- ロバート・アーリック,「トンデモ科学の見破りかた」,垂水 勇二,阪本 芳久 共訳,草思社,2004.
論理の運び方次第では,デタラメな結論にたどりつけることを実証した本.
上記の「統計でウソをつく法」を読んだ後に読むと,なお良いでしょう.
こういう本を読むと,いかに情報を検証することが大事かということが実感できます.
- 坂根 厳夫,「遊びの博物誌 1,2, 新・遊びの博物誌 1,2」,朝日文庫,1985〜86.
からくり,だまし絵,オップ・アートなどを集めた本.
特定の題材に関する専門書はありますが,一般向けに多くの題材を網羅したこういう本は,現在はないような気がします.
- マーク・E・エバハート,「ものが壊れるわけ」,松浦 俊輔 訳,河出書房新社,2004.
量子化学者が書いた破壊に関する一般向けの本.
ただし,書いてあること自体は,学部の機械工学のカリキュラムで習う材料科学(転移論)と破壊力学ぐらいの内容なので,機械系の人間としては鋼以外の種々の材料の特性や破壊の事例が興味深く読めます.
- D・A・ノーマン,「誰のためのデザイン?」,野島 久雄 訳,新曜社,1990.
デザインをして機能を語らしめるアフォーダンスを提唱し,その重要性を紹介した本.
デザインは基本設計が大事であり,あとからいくら説明を加えても改善されないということが分かります.
- クレイトン・クリステンセン,「イノベーションのジレンマ,増補改訂版」,玉田 俊平太 監修,伊豆原 弓 訳,翔泳社,2001.
クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー,「イノベーションへの解」,玉田 俊平太 監修,櫻井 祐子 訳,翔泳社,2003.
新しい技術を持続的技術と破壊的技術に分類し,既存の巨大な企業と新興の小さな企業はそれぞれ,持続的技術と破壊的技術に利点を持つこと,およびこれらの利点を活用した企業が成功し,その逆はほとんどが失敗に終ることを述べた本.
これらの技術の進歩というのは,進化論とかなり似通っているのではないかと思います.
また,組織が作られてから時間が経つと,その能力は資源(人材など)の総和にはよらず,組織の判断基準が決定することや,「モジュール型設計」と「相互依存型設計」を比較し,「モジュール型設計」ではコモディティ化して,いかに安く作るかという激しい競争にさらされるので,利益の面からは「相互依存型設計」を目指すべきということも述べられています.
どちらかというと「ジレンマ」は一般書で「解」は経営学の専門書なので「ジレンマ」の方が読みやすいですが,「モジュール型設計」と「相互依存型設計」については「解」の方にしか述べられていません.
ところで,これらの本で「破壊的」というのはdisruptiveの訳語であり,destructiveではなく,ましてやdestruktiwでは絶対にありません.
この破壊的技術というのは,これまでの技術の延長線上にないということなので,むしろ「断絶的」などの方が分かりやすいのではないかと思います.
(「下克上的」が意味としては一番いいですが,これだとやりすぎですよね...)
- クレイトン・M・クリステンセン,スコット・D・アンソニー,エリック・A・ロス,「明日は誰のものか」,宮本 喜一 訳,ランダムハウス講談社,2005.
上記の「イノベーションのジレンマ」,「イノベーションへの解」の続編です.
2部構成となっている本なのですが,第1部の理論では新しい概念の提示はあまりありませんので,色々な業界への分析を行っている第2部がこの本の目玉であると思います.
分析されている業界の中には教育が含まれており,大学における経営・経済の分野と看護士育成の分野に関して例をあげています.
教育の場合,「顧客」としてまず最初に思い付くのは学生ですが,著者らの記述からは満足度を評価する「顧客」には会社や病院の経営者も想定していることが感じとれます.
しかし,その後の記述ではこの2種類の「顧客」の満足度の違いを区別していないため,あまり的を射た指摘になっていないように思います.
- ジャレド・ダイアモンド,「銃・病原菌・鉄,上・下」,倉骨 彰 訳,草思社,2000.
文明史の本だが,同時に西洋人は自分達を農耕民族だと思っていることが分かる本.
日本人は農耕民族で西洋人は狩猟民族だからどうのこうのという人が時々いますね.
そういう人はこの本を読んだことがないのでしょう.
1998年度ピュリッツァー賞一般ノンフィクション部門受賞作.
- ジャレド・ダイアモンド,「文明崩壊,上・下」,楡井 浩一 訳,草思社,2005.
最近,工学の分野で「失敗学」が注目されていますが,さしずめ文明の失敗学に相当する本であり,上記の「銃・病原菌・鉄」の姉妹篇にあたる本です.
過去の失敗の分析は共有地の悲劇などであり,それほど目新しい著述ではありませんが,第4部の将来への提言がファナティックではなく,現実的な著述であるのがこの本の価値ではないかと思います.
なお,参考文献自体はきちんと書かれていますが,その参考文献の最後に(本文に書くべき)著者の主張があるのは,本の構成としてどうかと思うのですが...
- ビョルン・ロンボルグ,「環境危機をあおってはいけない」,山形 浩生 訳,文藝春秋,2003.
おそらく,環境保護運動に反対する書籍として誤解されていることが多いのではないかと思いますが,実は環境問題に対する現実的な対処法を述べているまっとうな本.
環境保護と言う錦の御旗のもとで短絡的に行動するのは,ニヒリズムに陥りながら何もしないのと,思考停止しているという点で同じであるので,現状を客観的に分析して長期的な視点で何が一番効果的かを考えながら行動することが重要なのだと思います.
(原書を読んだわけではありませんので英文の文体は分からないのですが,訳文は見事に山形浩生節で好き嫌いが分かれる文体です.
しかし,読みやすく理解しやすい文章と思います.
また,訳者あとがきが簡潔にかつ的確に本の内容をまとめていますので,興味を引かれたならば,訳者あとがきだけでも書店で手に取って読んでみて下さい.)
- 干刈 あがた,「しずかにわたすこがねのゆびわ」,福武書店,1986.
高度成長前夜,雇用機会均等法以前の時代において,選択肢の少ない中で選んだものによって変わってしまう人生を描いた小説.
自由が多い現代でも,年をとるということは自分の選択肢をどんどん狭めて退路を断ってゆくことなのかなと感じます.
もう若くはないせいでしょうね.
- 干刈 あがた,「十一歳の自転車」,「借りたハンカチ」,集英社,1988,89.
生活情報誌「オレンジページ」に「物は物にして物にあらず物語」とし読み切り連載された短編をまとめた本.
社会を真摯に見つめる目とユーモアの絶妙なバランスが,この著者の特徴なのですが,長編ではいささか重たくなってしまうところを,掲載誌に合わせてか,軽妙にまとめています.
最初に出た「十一歳の自転車」では,印象に残る作品とぎごちなさを感じる作品が入り交じり,荒削りな印象がありますが,後に出た「借りたハンカチ」では,慣れてきたのか切り口は多様ながら洗練を感じさせます.
所々にはO・ヘンリを連想させるようなウィットやペーソスも漂っており,このまま連載を続けていたならば,短編小説の名手としての未来もあり得たのかも知れません.
1992年に夭逝されたため,作家活動が10年で途切れてしまったのが,残念なところです.
- 寺山 修司,「ぼくが狼だった頃」,文藝春秋,1979.
誰もが良く知っている童話を破天荒にパロディしてしまった本.
ここまで豪快な本はなかなかないと思います.
中学生の頃,同級生がこの本を読んでいて,文化祭の出し物の劇の台本として提案していたのを覚えていますが,私自身が読んだのはそれから10年以上経ってからでした.
今にして思うとその同級生はえらく早熟だったのですね.
- 斎藤 美奈子,「紅一点論」,ビレッジセンター,1998.
宇宙戦艦ヤマト,機動戦士ガンダム,新世紀エヴァンゲリオンなどアニメの名作,怪作を斬りまくる痛快な評論.
これを読むとアニメの見方が変わります.
- 酒井 寛,「花森安治の仕事」,朝日新聞社,1988.
「暮しの手帖」の名物編集長の伝記.
日本製品の品質の飛躍的な向上には,この本で述べられているような批評も貢献したのではないかと感じます.
- 酒井 邦秀,「快読100万語!ペーパーバックへの道」,ちくま学芸文庫,2002.
あいさつや日常会話を目指すのではないならば,合理的な英語習得法ではないかと思います.
ただ,私はここまで時間がかけられない/集中力が続かないんですね.
筆者は英語が苦手なので,頑張らなければならないのですが...
また,理工系の人で小説を読む習慣のない人は,定評のある
- 数学の教養書(ex. R. Courant and H. Robbins, What is Mathematics? Oxford University Press)
- 応用数学のテキスト(ex. E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics, John Wiley & Sons)
- 工業力学のテキスト(ex. F. P. Beer and E. R. Johnston, Jr., Vector Mechanics for Engineers, McGraw-Hill)
などでもいいのではないかなと思います.
- George E. Dieter, Engineering Design, 3rd Edition, McGraw-Hill, 2000.
設計というタイトルですが,材料や製造方法の選定のような機械工学に関することから,問題に適した設計チーム,製造工程とのすり合わせ,工程管理,信頼性,設計倫理,さらにコストやマーケティング,コンセプトの立て方など経営工学に関することまで,ものづくりに関して設計から製造に至るまでの事項がほぼ網羅されているような本.
昔の企業ではOJTで経験的に身に付けていたことがまとめられているような本であり,どちらかというと学問的というよりも幅広く方法を説明している印象を受けるので,大学の研究者よりも,企業の設計・製造のマネージメント部門にぴったりな本だと思います.
筆者自身は,こういったことを全く知らずにメーカーに入って,工程管理表(ガント図)ばかり書いておりました.(結局,これもOJTですね.)
数年前の研究室の輪講で使った本です.
- マーク・レヴィ,「ひらめきの物理学」,森田 由子 訳,SBクリエイティブ,2013.
数式をあまり使わないで様々な物理現象を説明している本.
このリストの最初に挙げた「新・パズル物理入門」ほど簡単ではありませんが,色々と興味深い事例が載っています.
Last update: 2018.7.20
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