量子コンピュータ

量子コンピュータは、量子力学の不確定性と干渉効果をうまく利用して問題を解決する、全く新しいタイプのコンピュータで、うまく利用すると従来のコンピュータでは全く不可能な計算をすることができると期待されています。

量子コンピュータは量子ビットを組み合わせて作られます。1つの量子ビットでは、0と1の2つの状態を量子力学的に重ね合わせた状態を作ることが出来ますが、観測すると必ず0か1しか得られません。(これはいわば、コインの裏を0、表を1とすると、コインを放り投げて空中で回転している状態が重ね合わされた状態に対応し、机の上に落ちて裏か表が出ている状態が観測された状態に対応しているということができます)。また、 量子ビットをいくつも用意すると重ね合わせた状態によって沢山の数字の計算を一度に行うことができますので(量子並列性)、いくつもの量子ビットの間でその重ね合わせた状態を絡み合わせた量子もつれの状況を作り(コインとコインの間を紐で結ぶ)、かつ量子ビットを操作する(コインの空中での回転の仕方を操作する)ことで計算を実行することが出来ます。

量子状態は粒と波の性質を同時に持っていますが、波の性質を利用して連続した一連の整数の重ね合わせ状態を一度に用意し、その波を一斉に操作して計算することで答えに対応する特定の波の振幅だけ大きくした後、粒の性質を利用して大きな振幅を持った波を計算結果として取り出す、というのが計算原理です。

計算を実行するには、まず最初に量子ビットを特定の量子状態に初期化、その後相互にもつれあった量子ビットをどのような手順でどのように作り出し操作するのか、が入力とプログラミングに対応し、その結果観測される各量子ビットの0か1かの状態が出力となります。

現在、量子アニーリング方式の量子コンピュータが発売されていますが、実際にその潜在的能力を完全に発揮できる汎用性の高い量子ゲート方式の量子コンピュータの研究開発も盛んに行われています。量子ゲート方式の量子コンピュータが実現すれば、素因数分解や最適化問題のような通常のコンピュータで解くことが難しい数学の問題を簡単に解くことができることが期待されています。

このような量子コンピュータを実現するためには、従って良好な量子ビットを作ること、その量子ビットを操作できるようにすること、その量子ビット同士の量子もつれを操作できるようにすること、そして量子ビットの状態を読み取ることが出来るようにすること、が必要です。通常のコンピュータを上回る性能の量子コンピュータを実用化するには、数億個の量子ビットを並べ操作する必要があると言われています。このようなことは、現時点では超伝導部品によって作られた超伝導量子ビットによって実現されていますが、量子状態が非常に壊れやすいためにほとんど絶対零度である絶対温度15mK以下の極低温に装置の中心部を冷やすことが必要です。 しかしそれでも、多数の量子ビットで重ね合わせの状態や量子もつれの状態を長時間維持し制御することは大変難しく、量子コンピュータの性能を決める量子ビットの数は数千ビット程度とまだわずかです。また、量子ビットを正確に高速に制御する必要があるため、通常のコンピュータに接続することも欠かせません。このため現在開発中の量子コンピュータは非常に大きく消費電力も大きい装置となってしまっています。このため量子コンピュータは、パソコンやスマートフォンのようなサイズで個人が持ち歩くものでは無く、研究所や会社やデータセンターなどに置かれるような特殊な用途の計算サーバとして実用化され利用されていくものと考えられます。

現在の量子コンピュータの情報処理理論に基づくなら、将来の量子コンピュータでは間違いなく極めて多数の量子ビットを超高集積化する必要がありますから、何十億個ものトランジスタをわずか1cm角の正方形の中に作り込むことができる現在の半導体技術は大変魅力的で、間違いなく半導体を使ったコンパクトな集積度の高い量子コンピュータを将来作ることになるでしょう。そうすれば、量子ビット制御のための従来型のコンピュータも一緒に作り込むことも可能で、冷蔵庫程度の大きさにできれば、将来的には小さな会社でも何台も置くことができるようになるでしょうし、さらにはより小型化して手のひらサイズになるでしょう。現在そのための研究も盛んに行われています。