物理の世界
物理の世界
物理の世界は、大変広範な分野にわたっています。担当する回では、電子部品材料の物理に関して、特に表面と界面に注目して、表面再構成とヤーンテラー効果、表面反応と膜成長と界面形成、二次元半導体の電気特性制御について紹介します。
電子部品では微細加工が進み、現在では原子が数えられるほどの大きさで、様々な金属、半導体、絶縁体が巧みに組み合わされて、形成されています。このため電気的性質の変化する界面や表面が所々に存在します。物質の電気的性質は化学結合で決まっていますが、どのような化学結合を示すのかは価電子の分布が決めています。このため、物質中の電子の運動を詳しく知ることが、電子部品材料の理解には重要です。
電子部品材料として代表的なシリコンの表面では、原子が規則正しく並んでいますが、結晶中とは異なった規則性で並ぶことが知られていて、このような現象を表面再構成と呼びます。これは、原子同士が化学結合した結果得られる電子の運動が最も安定するように原子が並んだためで、対称性が自発的に破れるヤーン・テラー効果を示す例として知られています。
シリコンを電子部品として利用する際にはしばしば表面を酸化し、さらにその上に金属を堆積することでMOSFETというトランジスタを形成します。シリコンの酸化は、シリコンと酸素が化学反応を起こす現象ですが、酸素は気体であるもののシリコンは固体であり、また形成されるシリコン酸化物も固体であるため、吸着・脱離・拡散・反応といった様々な物理現象が起こり、それらを制御することで初めて所望の品質を持った所望の厚さのシリコン酸化物を形成することができます。
グラフェンに代表される二次元半導体は原子層一層という究極の厚さですが、良好な電気特性を示すため、次世代電子部品材料として期待されています。ただし、その薄さのため、どのような材料にどのように載せ、どのような材料でどのように覆うのかが、電気的性質を大きく左右します。現在その制御方法が盛んに調べられています。
これからの電子部品としては、例えば太陽電池で動くスマートフォンを実現するような、低消費電力で高性能なものが期待されます。そして、人間の右脳の機能をAIで実現する神経型電子部品や、従来のコンピュータでは解けない問題を解くことが期待される量子コンピュータ用電子部品の開発も期待されています。そのためには、電子部品材料の物理の一層の研究が求められています。