計算パラメータの決め方
計算パラメータの決め方
第一原理計算とはいいますが、その計算の精度は計算パラ メーターに依存します。例えば平面波基底を用いた擬ポテンシャル法の場合、擬ポテンシャルの良し悪しは計算結果に決定的に影響します。また、平面波基底の数を決めるカットオフや k 点サンプリングの数は大きいほど計算精度が増してよいのですが、大き過ぎると計算時間が長時間になったりメ モリー使用量が膨大になってしまいます。金属の場合には、フェルミ面の形状が大事ですので、k点サンプリングの数が半導体や絶縁体よりも多く必要で、また電子系の収束判定条件も厳しく取らなければいけません。局所密度近似では、多数の電子同士の相互作用の複雑な部分を一手に引き 受けた交換相関相互作用項にどのような関数形を用いるかも精度に影響を与えますし、磁性材料の場合はなおさらです。
これらの問題をクリアするためには、計算したい物質の構成元素単体、あるいは単純でよくわかった化合物について、原子間距離や結晶の格子定数、体積弾性率、バンド分散関係(局所密度近似固有の特性としてバンドギャップが実験値の半分程度となることを除いて)などが、実験値やこれまでの計算報告例を再現できるように、計算目的の精度にあわせて計算パラメーターを設定する必要があります。これは実験で標準サンプルを用いて装置を校正するのと同じような作業であり、計算の基本となるので注意深く行わなければなりません。
実際の系を計算する場合、多くの計算パラメーターはテストケースで最適化したものをそのまま使えばいいですが、k 点サンプリングの数は単位胞の大きさに反比例しますので、ある方向を2倍にした単位胞で計算するなら、その方向の k 点サンプリングの数を半分にして構いません。擬ポテンシャ ル毎に必要となる平面波基底のカットオフや k 点サンプリングの数が決まりますので、複数の元素によって構成される化合物では、それらの中の最も厳しい値が設定すべきパラメーターの基準となります。
擬ポテンシャル法の場合、各元素毎に対応する擬ポテ ンシャルが必要ですが、近年流布しているソフトには標準的な擬ポテンシャルがほとんどの元素に対してあらかじめ用意されています。ただし、それでは不十分なこともあり、例えば SiGe/Si のような歪みエピタキシャル系界面の歪み効果を計算しようとした場合に、計算によって得られる SiGe 結晶単体と Si 結晶単体の格子定数の比が既に実験値と大きくずれているようでしたらとても議論になりません。このように出来合いの擬ポテンシャルで十分な精度が出ない場合には、ソフトによっては擬ポテンシャルを自分で作成できるものがありますので試してみるのが良いでしょう。擬ポテンシャルは、孤立原子について電子配置を決めて作成し、次にそれが別の電子配置を再現できるかのチェックを行い、その後構成元素単体の結晶などのテストケースを調べ、その擬ポテンシャルの良し悪しの判断を行う、という手順を取って作成します。擬ポ テンシャルは作り方が悪いと、特にゴーストと呼ばれる分散の全くない、あってはならない状態がバンド分散関係に表れることがありますので、これにも注意が必要です。