計算に用いるモデルの取り方
計算に用いるモデルの取り方
第一原理計算で扱うことができる単位胞当たりの原子数は限られています。しかし、現実の問題は大変多くの原子を含んだ系で複雑に起こるものです。そこで必ず問題を単純化し、第一原理計算で扱えるようにモデル化しないといけません。これは非常に重要なポイントです。
それにはまず、どのような材料のどのような物性を調べるのか、計算の目的をはっきりとする必要があります。例えば、結晶表面での分子反応過程を考えてみましょう。複数の分子が飛んできて、これが結晶の表面に吸着し、そこで解離して反応が起きる、というように現象は進むはずです。しかしこれをすべて一貫して全自動で計算することはできません。現象をいくつかの原子過程に分割し、それぞれの原子過程を調べるようにしなければなりません。第一原理計算では、分子動力学法を用いない限り温度は絶対 0度です。また、単位胞当たりの原子の数は入力の時に与えたものを維持し、勝手に増減しません。表面に一つの分子が飛んできて、それが吸着し、どういう安定構造を取るのか、その次に他の分子がやってきたらどうなるか、という具合に調べることになります。
平面波基底を用いる計算手法では、三次元周期境界条件が前提として使われているため、表面を計算するためには周期的に真空層を入れた周期薄膜モデルを用いるのが一般的です。真空層の厚さや、薄膜の厚さは結果を左右する重要なポイントとります。真空層が薄いと周期薄層同士が相互作用してしまいますし、膜厚が薄いとバルクの部分が少なくなってしまって固体表面という性質が表せなくなるだけでなく、薄膜の表面と裏面が相互作用してしまいます。また、分子を遠くから表面に近づけてきて吸着させる過程を追うのであれば、注目する表面ではない表面からの相互作用が無視できるように真空層を十分厚く取らなければなりません。
薄膜の裏面は興味がないので、共有結合性の元素からできている系の場合は通常、ダングリングボンドが出ないように水素原子で終端処理します。また、GaAs のような化合物半導体では共有結合に価電子の過不足がないように 3/4価や 5/4価の仮想的な水素原子を使って終端するのがよいことが知られています。
表面の面内方向も周期境界条件ですので、一つの分子を吸着させていると思ってもそれは単位胞当たりのことであって、実際にはある間隔に並んだ無限個の分子を表面に吸着させていることになります。したがって、面内周期が十分であるのか、議論を左右しないのかを、面内の単位胞サイズを増減させて確認する必要もあります。
原子構造を最適化する場合には、関心のない部分の原子をどう取り扱うのか、も重要な点です。裏面の原子を基板結晶の理想的な位置に固定するのが一般的ですが、理想的にはそのようなことをしなくても同じ結果になるくらい、膜厚は厚い方がよいでしょう。