結果の解析・解釈について
結果の解析・解釈について
計算結果は、モデル、入力データ、計算精度に左右されますので、計算結果が出てきたら物理的に正しいものかどうかをよく吟味しなければなりません。そのためには、バンド分散関係や、状態密度、電荷密度、局所状態密度といった電子状態にかかわる情報や、原子間距離、結合角、配位数といった原子構造にかかわる情報をよく解析することが大切になってきます。
例えば、磁性材料の計算をした場合、強磁性になったからといってすぐに早合点するのは危険です。それは電子状態の初期条件として強磁性的なスピン分極を与えたがために強磁性になったという可能性も考えられますし、単位胞が小さいためにたまたま強磁性になっただけという可能性も考えられるからです。電子状態の初期条件を反強磁性的にした場合と比較してどうなのか、単位胞を倍のサイズにして計算し直しそれでも磁性が消えないのか、そうした確認が必要です。また、もしそうして強磁性と判定できたとしても、それは強磁性の可能性が高いことを示しているだけです。磁性は複雑な電子相関の帰結なので、交換相関相互作用の関数の取り方などによって結果が左右されることもありますし、局所密度近似の範囲内では限定的な結論を出すことが危険であることが知られています。
表面再構成の原子構造を計算した場合も注意が必要です。例えば、原子構造の位置を最適化した場合、収束して得られる結果は最初に与えた初期構造近傍の準安定構造であって、グローバルに安定な原子構造ではない可能性も残されています。初期構造をいろいろ変えてみて実際その原子構造が安定であることを確認する必要があります。また例えば GaAs 表面の場合、Ga 原子の数と As 原子の数に大きな任意性が存在するので、どの原子の数が最適であるのかは外部環境系との原子のやりとりによって決まることとなり、統計力学的な議論が必要となります。
このように第一原理計算で計算できるものは微視的なサイズのモデル計算なので、実際のマクロな時間もしくは空間スケールで起こる現象との議論に大きなギャップがある場合が多いです。このような場合は、統計力学的な理論や連続体近似に基づくマクロ理論、あるいは分子間力を使った分子動力学法・モンテカルロ法と適宜組み合わせて議論することが必要になってきます。